喉40
「何か、いるんですか?」
思わず喉を鳴らすマナにならい、幸一も闇の奥を凝視。何かが動いた。ガサリと音をたて、その獣は悠然と舗装されたアスファルト上に姿を現す。
「キャ……んぐ!」
叫びをあげかけたロザリアの口を、背後からマナが両手で塞ぐ。
「静かに……人食い熊でなければ、そうそう人は襲わない。こっちが叫んだり、危害を加えたり、背を見せたりしない限りは」
熊は、ジッとこちらを見据えている。距離はおよそ五十メートル。
「眼を、逸らしちゃ、い、いけなんですよね? た、確か、逸らした瞬間、来るって。背を見せても、来るそうですよ、ね?」
「……話では、そういうふうに聞いている」
冷たい汗が背筋を伝うのを感じながらも、熊から眼を逸らさずにマナは聞く。
「睨み合いを続けていれば、帰る……帰りますよ、ね?」
「……もし、帰らなかったら?」
「い、嫌な事、言わないで下さい……! 逃げても、熊の速度には勝てないでしょう?
「そうだね……ロザリアちゃん、手を離すけど、絶対大声を出さないで」
マナはロザリアが頷くのを見て口から手を離した。
「で、で、でも、どうします?」
ロザリアの疑問に、マナは渋い表情。
そんな中、幸一はゴミ袋の中からビール瓶を取り出す。
「こ、これでも、無いよりは、マシでしょうかね?」
熊が動き出す。のそりのそりとこちらに近寄ってきた。
「……! ねえ、ねえ、どうすれば……ングッ!」
今度は幸一が、空いた左手でロザリアの口を塞ぐ。
「あ、あの、お、おふ、お二人は、どんな能力を持っているんですか?」
熊を睨みながら震えた口調で幸一が問う。